今回は,簡単・分かりやすい民法改正解説シリーズの第10弾です。
今回は,前回の続き、大幅に改正されることとなった「債権者取消権」の後編(最終編)です。
前編はこちら:簡単・分かりやすい民法改正解説~シリーズ8 債権者取消権・前編(改正の経緯と方向性)~
中編はこちら:簡単・分かりやすい民法改正解説~シリーズ9 債権者取消権・中編(要件に関する改正)~
債権者取消権は、大きく分けて、
①要件について、破産法の否認権を意識して類型化・厳格化すること、
②権利行使の方法について、判例法理の明文化すること、
③権利行使の効果について、判例法理の問題点を修正すること
という方向性で改正が行われます。
前回は、①の改正内容を詳しく説明しましたので、今回は、②権利行使の方法と③債権者取消権の効果に関する改正と、それ以外の改正について、解説・説明をします。
債権者取消権の行使方法の改正:判例法理の明文化
前回のコラムに掲載しましたが、現行民法は、424条第1項で、詐害行為取消権の行使方法について、「裁判所に請求することができる」とだけ規定しています。
このわずかな規定だけでは、誰を被告として、何を請求できるのか、取消しの範囲、債権者が受益者や転得者から直接取立てることの可否などが明らかでなく、判例と学説が展開してきました。
改正案では、これらのことがはっきりわかるように、従来の判例の内容を中心に規定が整えられています。
◆誰を被告とすべきか
受益者または転得者を被告とし、債務者は被告にできません(改正案424条の7第1項)。
しかし、後述のとおり、この判決の影響は債務者にも及ぶので、手続保障のため、債務者に訴訟告知をする義務があります(同条2項)。
◆何を請求できるのか
債務者のした行為の取消(形成訴訟の面)と、財産の返還または価額の償還(給付訴訟の面)を両方請求することができます(改正案424条の6)。
返還方法は現物返還が原則であって、価額償還は現物返還が困難なときに限られます。
◆取消しの範囲
金銭など可分な財産について贈与や売却など詐害行為が行われた場合、債権者は自己の債権額の限度でしか取消権を行使できません(改正案424条の8)。
たとえば、300万円の債権を有している債権者が、債務者が行った500万円の贈与を債権者取消する場合、300万円分だけ取り消して返還を求めることになります。
他方、不動産など不可分の財産について贈与や売却などの行為が行われた場合、詐害行為全部を取り消します。
◆直接取立ての可否
受益者又は転得者が返還すべき財産が金銭または動産の場合、債権者は、受益者または転得者に対して、直接自己へ、金銭の支払や動産の引渡しを求めることができます(改正案424条の9)。
この結果、債権者は受け取った金銭と自分の債権とを相殺することができます。
債権者への直接取立てを認めると、債権者取消権は強制執行に備えるための制度(債務者の財産にもどすべき)のはずが、債務名義も取らずに債権回収完了となってしまいます。
このため、改正案のこの結論には批判も強かったところですが、実際上、この効果が債権者取消権行使のインセンティブとなっているなどの理由で、債権者の直接取立てを禁止することは見送られました。
ただし、相殺権濫用の法理により、個別に禁止されることはありえます。
債権者取消権の効果に関する改正:判例法理の問題点を修正
債権者取消権の効果について、現行民法は、425条で「前条の規定による取消しは、すべての債権者の利益のためにその効力を生ずる」とのみ規定しています。
この規定でだけでは、効果が不明確であるため、判例と学説が展開してきました。
そして、従来の判例は、詐害行為取消権の効果について「相対的取消」という立場を採っていました。
取消判決の効力は原告である債権者と被告である受益者・転得者との間でのみ生じ、債務者には及ばないという考え方です。
しかしこれでは、取り戻して債務者名義になった不動産に強制執行できることや、弁済が詐害行為として取り消された場合に受益者の債権が復活することを説明できないという問題点がありました。
そこで、改正案では相対的取消の立場を否定し、取消判決の効力は債務者にも及ぶことにしました(改正案425条)。
取消判決の効力が債務者にも及ぶとされたことによって、財産を返還させられた受益者や転得者の保護が前進しました。
具体的には、次のように改正されます。
◆反対給付と引き換えに取得した財産を返還させられた受益者
債務者に対し反対給付の返還、またはそれが困難であるときは価額償還を請求できます(改正案425条の2)。
◆弁済等が取り消されて受け取った財産を返還させられた受益者
弁済等で消滅した債務者に対する債権が復活します(改正案425条の3)。
◆上記2類型の受益者から財産を転得した転得者
各類型に応じ、受益者が取得するはずの反対給付返還請求権または復活した債権を、転得者が代位行使できます(改正案425条の4)。
ただし、転得者自身が前者に対してした反対給付や消滅した債権の価額が上限となります。
その他(期間制限)に関する改正
債権者取消権について、現行民法は、426条で「債権者が取消しの原因を知った時から2年間行使しないときは、時効によって消滅する。行為の時から20年を経過したときも、同様とする。」と規定しています。
つまり、債権者が詐害行為を知った時から2年の消滅時効と、詐害行為の時から20年の除斥期間の2種類です。
改正案は、これを次の通り改めました(改正案426条)。
債権者が詐害行為を知った時から2年の出訴期間と、詐害行為の時から10年の出訴期間の2種類です。
債権者取消権に関する訴訟は、2年経過したときは「提起できない」と規定され、「時効」の規定はなくなりました。
時効の中断・停止(改正案では完成猶予・更新)はできなくなる点、長期の期間制限が10年に短縮される点に注意が必要です。
終わりに
以上、債権者取消権の行使方法、効果、期間制限に関する改正の内容について説明・解説しました。
前編・中編・後編に分けて、債権者取消権の改正を説明・解説もこれで終了です。 民法以外の条文も登場し、難しい内容だったかもしれません。
ですが、債権者取消権は、売買代金や請負代金などの各種売掛・代金その他の債権を回収するにあたって実務上有効な手段とされており、この点の改正は、少なからぬ影響があるように思います。
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