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簡単・分かりやすい民法改正解説~シリーズ9 債権者取消権・中編(要件に関する改正)~

今回は,簡単・分かりやすい民法改正解説シリーズの第9弾です。

 

今回は,前回の続き、大幅に改正されることとなった「債権者取消権」の中編です。

 

前回は、債権者取消権の基本、このような大幅な改正が行われることになった経緯と、改正の方向性についてお話ししましたので、今回から、いよいよ改正内容の解説・説明をします。

(前回コラムはこちら:簡単・分かりやすい民法改正解説~シリーズ8 債権者取消権・前編(改正の経緯と方向性)~

 

前回のコラムで説明したとおり、債権者取消権は、大きく分けて、

①要件について破産法の否認権を意識して類型化・厳格化すること、

②権利行使の方法について判例法理の明文化すること、

③権利行使の効果について判例法理の問題点を修正すること

という方向性で改正が行われます。

この3つの内、今回は①要件の改正内容を詳しく見ていきます。

 

現行民法第424条

まずは、現行民法の債権者取消権を見てみましょう。条文は、つぎのとおりです。

 

◆現行民法第424条 ◆

第1項 債権者は、債務者が債権者を害することを知ってした法律行為の取消しを裁判所に請求することができる。ただし、その行為によって利益を受けた者又は転得者がその行為又は転得の時において債権者を害すべき事実を知らなかったときは、この限りでない。

第2項 前項の規定は、財産権を目的としない法律行為については、適用しない。

 

要件改正:判例法理の明文化

改正案では、一般的な要件として上記条文は残していますが(改正案424条1項・2項)、次のとおり、条文から読み取れなかった次の判例法理を明文化、要件の厳格化を図っています。

  1. 現行民法424条1項に「法律行為」とあるのを「行為」に改め、契約などの厳密な法律行為だけでなく、弁済や債務の承認なども「詐害行為」に含まれることを明らかにしています。
  2. 現行民法424条1項が受益者と転得者を一緒に規定しているのに対し、同項から、「転得者」に関する規定を削除し、転得者については取引の安全を重視して要件を加重する別の条文を設けました(改正案424条の5)。後述します
  3. 債権者の債権は、詐害行為より前の原因に基づいて生じたものでなければならない(改正案424条3項)ことを明文化
  4. 債権者の債権は、強制執行により実現できるものでなければならない(改正案424条4項)との判例法理も明文化

 

要件改正:詐害行為を類型化、要件を厳格化

債権者取消権の改正は、破産法の「否認権」を強く意識して改正されることとなったことは、前回お話ししたとおりです。

そして、破産法では、否認行為を類型化し、それぞれ要件を定めています。

そこで、債権者取消権の改正にあたっても、同じように、詐害行為を類型化し、それぞれ要件が規定されることになりました。

 

新しい詐害行為及び否認行為の類型と、それぞれの行為に対して債権者取消権、否認権を行使するための要件を、一覧表にして比較してみます。

以下の表を見ると、否認行為類型、否認行為の要件に合わせつつ、債権者取消権では要件をより厳しくしているのがわかります。

 

(改正民法「債権者取消権」、破産法「否認権」比較表)

 

民法改正案

破産法

詐害行為一般
(責任財産を減少する行為)

424条

・債務者の悪意
・受益者の悪意

160条1項

・債務者の悪意

・受益者の悪意

  または

・支払停止または破産申立後

・受益者の悪意

無償行為
(贈与など)

同上(規定なし)

 

160条3項

・支払停止前6月以内

相当価格処分行為
(売却、担保供与を伴う新たな借入など)

424条の2
・隠匿等のおそれ
・債務者の隠匿意思
・受益者の悪意

161条

・隠匿等のおそれ
・債務者の隠匿意思

・受益者の悪意

(悪意の推定規定あり)

偏頗行為
(一部の債権者に対する弁済、担保供与など)

424条の3第1項
・支払不能
・債務者と受益者の通謀害意

162条1項1号

・支払不能または破産申立後

・受益者の悪意

(悪意の推定規定あり)

非義務的偏頗行為
(一部の債権者に対する期限前弁済など)

424条の3第2項
・支払不能前30日以内
・債務者と受益者の通謀害意

162条1項2号

・支払不能前30日以内

・受益者の悪意

過大な代物弁済等
(債務額より高額な財産による代物弁済など)

424条の4
過大な部分だけ424条の要件により取消しできる

160条2項
過大な部分だけ160条1項の要件により否認できる

 

 

 要件改正:転得者に関する要件の整備

前回、債権者取消権の行使事例として、

G社(債権者)が売掛債権を有している取引先S社(債務者)が、債務超過に陥り、資産隠しを企んで、知人A(受益者)に相談の上、同社所有の高価な美術品を贈与(詐害行為)した例を挙げました。

この事例に加えて、さらに、受益者Aが、S社から贈与された美術品を、さらにBに売却してしまったとします

受益者からさらに美術品を譲り受けたBは、「転得者」と呼ばれます。

 

転得者に対しても、債権者取消権を行使することは可能です。

現行の民法は、上記424条1項により、S社の悪意(債権者を害することを知っていたこと)とBの悪意(債権者を害することを知っていたこと)が認められれば取り戻しができました。

判例も、転得者に対して債権者取消権を行使する際、受益者Aの悪意は不要としていました。

しかし、改正案ではこの点が変更されました。

 

転得者Bへの取消請求が認められるためには、受益者Aに対する取消請求の要件がそろっていること、つまりAの悪意も必要ということになりました(改正案424条の5柱書)。

また、転得者BがさらにCに転売した場合、転得者Cへの取消請求が認められるためには、AとB両方の悪意が必要になります(同上2号)。

 

このように、転得者に関する要件はかなり厳しくなりました。

否認権にならって、取引の安全を重視した結果です。

なお、転得者の悪意の内容は、債務者Sの行為が「債権者を害することを知っていたこと」であって、「受益者Aが悪意だったことを知っていたこと」は含みません。

否認権では従来これも含むような規定だったのですが、悪意の悪意(二重の悪意)は立証が難しく、要件があまりにも厳しすぎると批判されていました。

そこで、詐害行為取消権に関しては二重の悪意の問題を避ける規定にするとともに、否認権の規定の方をそれに合わせて修正することになりました(破産法170条)。

 

終わりに

以上が、債権者取消権の要件に関する改正の説明・解説です。

次回は後編、債権者取消権の改正シリーズの最終編になります。

債権者取消権の行使方法、債権者取消権の効果に関する改正を説明・解説していきます。

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