今回は,簡単・分かりやすい民法改正解説シリーズの第33弾です。
第5回に分けて,私たちに最も身近な契約といえる「売買」に関する改正をみてきましたが、売買の改正については、今回が最後です。
民法は、売買について、売買の節を設け、その中に「売買総則」「売買の効力」「買戻し」の3つの款があることは、売買の第1回で説明したとおりです。
第2回から第4回を使って、大改正されることになった、その内の「売買の効力」に規定されている「売り主の担保責任」についてみていきました。
最終回の今回は、売り主の担保責任以外の売買に関する改正について説明します。
売買の主な改正は売り主の担保責任ですので、その他の改正はごく簡単にしたいと思います。
売買の第1回コラムはこちら:簡単・分かりやすい民法改正解説~シリーズ29 売買①:売買の改正概要・売主の義務~
売買の第2回コラムはこちら:簡単・分かりやすい民法改正解説~シリーズ30 売買②:売主の担保責任改正の概要~
売買の第3回コラムはこちら:簡単・分かりやすい民法改正解説~シリーズ31 売買③:売り主の担保責任・物の契約不適合~
売買の第4回コラムはこちら:簡単・分かりやすい民法改正解説~シリーズ32 売買④:売り主の担保責任・権利の契約不適合と期間制限ほか~
買主の代金支払拒絶権(改正案576条)
他人物売買などの場合で、後から権利を主張されて目的物を失うおそれが出てきた場合に、代金の支払いを拒絶できるという規定です。
権利を主張されて、という部分に、たとえば債権を購入したが債務者が債務の存在を認めないといったケースも含まれることが明らかになるように「その他の事由」という文言が追加されました。
また、すでに買い受けた権利を失うおそれでなく、取得できないおそれも含むように文言が追加されました。
買主の代金支払拒絶権(改正案577条)
購入した不動産に抵当権の登記がある場合に代金の支払いを拒絶できるという規定です。
ですが、抵当権の登記があることが、契約の内容として織り込み済みだった場合、この規定は適用されません。
このことが明らかになるように、「抵当権の登記」の前に「契約の内容に適合しない」という文言を追加しました。
手付(改正案557条)
民法が定める手付は、手付を交付した買主からは手付放棄、手付を受領した売主からは手付倍返しにより、契約を解除できるといういわゆる「解約手付」です。
従来の民法で、解除が認められるのは「当事者の一方が契約の履行に着手するまで」と規定されていました。
ですが、契約の履行に着手した側が、履行の着手後に解除することは許されるという判例法理があり、民法の規定と整合していませんでした。
この判例法理を明文化するため、「相手方が契約の履行に着手」するまでと変更されました。
また、売主から手付けを倍返しして解除する場合に、従来は「倍額を償還して」という文言になっており、仮に買主が受け取らない態度をとった場合には供託までしなければならないようにも読めました。
けれど、判例はそこまでは不要で、「現実の提供」で足りると解していました。
そこで、この判例法理も明文化して、「倍額を現実に提供して」という文言に改めました。
買戻し(改正案579条~585条)
買戻しとは、売買契約と同時にする特約で、将来売主からの一方的な意思表示により移転した財産権をもとに戻すことができるというものです。
従来の民法では、買戻しの際には「買主が支払った代金及び契約費用」を返還しなければならないと規定され、これと異なる合意は許されない(強行規定)と解されてきました。
しかし、支払った代金の全額を返すかどうかなどは、当事者の自由な合意にまかせてよいと考えられます。
そこで、この点を任意規定に改める改正が行われました(改正案579条前段)。
また、買戻しの特約の対抗力に関して、ちょっとした文言の修正が行われました(改正案581条)。
終わりに
以上が、売買の節の売り主の担保責任以外の改正内容です。
第5回に分けて、売買の改正についてみてきましたが、全体として、買主の保護が進められたという印象です。
消費者保護の観点からは望ましい面があると思いますが、昨今ではインターネットオークションなどで一般の方が売主となる場合も多いため、安心ばかりはできません。
実質的な改正点ではないため、本シリーズでは触れませんでしたが、売り主が担保責任を負わない旨の特約をすることもできます(572条)。
いわゆる「ノークレーム・ノーリターン」はこの特約に当たります。一般の方が売主となる場合には、こうした防衛策も検討する必要がありそうです。
売買は、基本的、典型的な契約であり、一般の方にももっとも身近な契約の1つです。
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