今回は,簡単・分かりやすい民法改正解説シリーズの第30弾です。
前回から、第5回に分けて,私たちに最も身近といえる「売買」に関する改正をみています。
前回、売買の効力について主に改正されることとなり、中でも特に「売主の担保責任」が大改正されることに触れました。
前回のコラムはこちら:簡単・分かりやすい民法改正解説~シリーズ29 売買①:売買の改正概要・売主の義務~
売買・第2回の今回は、大改正されることになった売主の担保責任について、従来からのルールとその問題点に触れながら、改正の概要と根本的に見直された考え方について、説明・解説します。
従来のルールと問題点
売り主の担保責任とは
買った物の品質が悪い、数が足りない、他人の権利がついていたなど、移転された権利や引き渡された物に不備があった場合、買主には一定の救済手段があります。
売主側から見れば責任であり、これを売主の担保責任といいます。
民法は、売買目的物に不備があるケースとして6つのケースを想定し、その際の買い主の救済手段として計3種類の手段を用意し、ケースに合わせて、使える救済手段を規定しています。
具体的には、不備のケースとして、売買の目的物・権利に以下の不備があった場合を想定しています。
- ①全部他人の物・権利であった場合
- ②一部他人の物・権利であった場合
- ③数量が不足又は一部が滅失していた場合
- ④地上権等の権利が付着していた場合
- ⑤抵当権等が付着していた場合
- ⑥隠れた瑕疵があった場合
そして、これらのケースを救済するために、
- 契約の解除
- 損害賠償請求
- 代金減額
という3種類の救済手段を用意しています。
また、これらの救済手段には、1年以内に権利行使しなければならないいう厳しい期間制限が設けられています。
問題点
以上の従来のルール・体系には、以下のように、様々な疑問や問題点がありました。
- 履行の追完は請求できないのか。
履行の追完とは、修理や交換等により不備を是正することです。従来は規定がありませんでした。
- 不特定物売買には適用されないのか。
不特定物売買とは、売買の目的物について、たとえば本や食品のように同じものがたくさんあって、その中のどれでもいいとする売買のことです。
これに対し、美術品や姿を見て選ぶ観葉植物、ペットなど、それそのものでなければだめなのは特定物といいます。
かつての通説は、不特定物の場合は瑕疵あるものが引き渡されても履行にならず、引き続き履行を求めればいいだけなので、不備のケース⑥の瑕疵担保責任は適用されないと考えていました。
- そもそもなぜ債務不履行の一般ルールに従った解除や損害賠償で処理するのではなく、担保責任としての解除や損害賠償が規定されているのか。
最も根本的な問題です。売買の目的物に不備があるということは、すなわち契約の内容に適合しないことなのです。売主に契約の内容に適合する権利を移転する(物を引き渡す)義務があると考えるかどうかにより、この問題に対する説明が全く違ってきます。
- ケース④や⑥にも代金減額を認めるべきではないか。
現行民法では、ケース④や⑥の場合には、代金減額請求が認められていません。
- ①の場合に売主からの解除権は不要ではないか。
現行民法では、ケース①の場合に、売主からも契約の解除ができることになっています。
- 期間制限が厳しすぎるのではないか。
以上の問題に、改正案は対処しました。
改正の概要
民法が想定する不備のケースを、物と権利の2種類に分けました。
- ○物に関する契約不適合(売買目的物の種類・品質・数量に不備:従来のケース③と⑥)
○権利に関する契約不適合(移転した権利に関する不備:従来にケース②、④と⑤)
救済手段として、いずれのケースでも
- ・履行の追完(不備の是正)
・代金の減額
・損害賠償請求
・契約の解除
ができるようになりました。
また、従来、厳しすぎるとの声もあった1年の期間制限が見直されました。
シンプルでわかりやすくなり、かつ、買主の救済が拡充された改正であるといえます。
改正のポイント:契約責任説の採用
今回の改正では、売り主の担保責任について、根本的に考え方を変えることになりました。
前回のコラムでお話ししたとおり、今回の改正で、売主には「契約の内容に適合した権利を移転する(物を引き渡す)義務」があることをはっきりさせました。
これはつまり、売り主の引き渡した物・権利に不備がある、すなわち、契約に適合していないということは、債務不履行であると考えることになります。
この考えに立つと、「売買」の節に規定された担保責任の規定は、債務不履行の売買における特殊ルールと理解することになります。
このような考え方は契約責任説とよばれ、民法改正により、この契約責任説が採用されたといえます。
ただし、後述のとおり、解除や損害賠償は売買における特殊ルールを廃止して、期間制限の点以外は債務不履行の一般原則に戻しているので、契約責任説からさらに進んで、債務不履行責任への一元化を志向したものといってもよいでしょう。
このような考え方に対して、従来の民法では、法定責任説と呼ばれる考え方が通説(一般的)とされていました。
法定責任説は、売り主の担保責任について、特定物の売買を念頭に、売主としてはその物を引き渡せば義務を果たしたことになり、債務不履行はないが、それでは買主が気の毒だから買主保護の制度を用意したものと考えます。けれど、このような考えでは、硬直的で現代に合っていないと批判されるようになり、改正案により完全に否定されました。
こうして、売り主の担保責任は、契約責任説の立場から構成しなおされ、上記のとおり、新しく整理されたのです。
終わりに
以上が、売り主の担保責任に関する現行民法のルールとその問題点、改正の概要と改正のポイントです。
売り主の担保責任については、シンプルに、物に関する契約不適合と権利に関する契約不適合の2つのケースに分類されることになりました。
次回、売買の第3回では、この内の1つ目のケース、物に関する契約不適合について、説明・解説していきます。