今回は,簡単・分かりやすい民法改正解説シリーズの第23弾です。
今回のテーマは、「弁済(べんさい)」の最終回です。
弁済の前編・中編を使って、弁済に関する3項目の内、第1目の総則(誰が、誰に、何を、いつ・どこで弁済すべきか等)に関する改正を見ましたので、今回は、第2目(弁済の目的物の供託)と第3目(弁済による代位)について、説明・解説を行います。
前編はこちら:簡単・分かりやすい民法改正解説~シリーズ21 弁済・前編:弁済の効果・第三者弁済など基本(総則)の改正①~
中編はこちら:簡単・分かりやすい民法改正解説~シリーズ22 弁済・中編:振込弁済・代物弁済・受領遅滞など基本(総則)の改正②~
弁済供託(改正案494条〜498条)
前回のコラム(弁済の提供と受領遅滞)で見たように、債務者は弁済の提供をすることで債務不履行責任を問われることがなくなりますが、それだけでは債務は残ったままです。
弁済供託は、債務者に金銭などの弁済の目的物を受け取ってもらえない場合に、金銭などの目的物を供託所に供託することで、弁済と同じ効果を生じさせ、債務を消滅させてしまえる制度です。
弁済供託に関しては、要件の一部について判例法理が明文化されました。
まず、債権者があらかじめ受領を拒絶している場合でも、いきなり供託するのではなくて弁済の提供(弁済の準備をして催告する口頭の提供)をすることは必要という点です(改正案494条1項1号)。
次に、供託物が保管に適しないなど一定の場合には、それを売却しお金に替えて供託する「自助売却」という制度がありますが、これについて変更が2点ありました。
1点目は、市場価値の下落が見込まれる場合にも売却できるようになったこと(改正案497条2号)、2点目は、近くに物品供託ができる供託所が見つからないなどの事情で供託が困難な場合にも売却できるようになったこと(改正案497条4号)です。これらは実務上不都合が生じていたことに対処するもので、実質的な変更です。
さらに、供託後は債権者が供託物の還付請求権を取得するという基本的な効果について、明文規定が置かれました(改正案498条1項)
弁済による代位(改正案499条〜504条)
弁済による代位は、債権に担保がついていて、かつ、債務者以外の第三者が弁済した場合に必要になる制度です。
たとえば債務者が500万円の借入れをして、自分の不動産に抵当権を設定し、さらに保証人もつけたとします。
この500万円を保証人が返済した場合、保証人は債務者に対する求償権を取得しますが、それと同時に債権者になり代わったような形で債権者が有していた抵当権その他の権利を行使することが認められており、これを「債権者に代位する」といいます。
債務者にとってはもともとのリスクと変わらないし、債権者にとってはもういらない抵当権なので損をしないし、弁済した人は求償権が保全されて安心を得られる、合理的な制度です。
(1)代位できる者(改正案499条)
弁済によって代位できるのは、債務者以外で債務を弁済した人です。
現行民法では、弁済をするについて正当な利益を有する者(保証人や物上保証人等)以外の第三者については、債権者の承諾がなければ代位できないというルールを設けていましたが、不合理だと指摘されてきました。
改正案ではこの要件を廃止して、誰でも弁済すれば代位できることにしています(改正案499条)。
ただし、正当な利益を有する者以外の第三者が代位する場合、そのことを債務者や第三者に対抗するためには債権譲渡と同じ対抗要件が必要というルールは残したので、正当な利益を有するかどうかによる違いはその点だけとなりました(改正案500条)。
従来、正当な利益を有する者による代位は「法定代位」、それ以外の者による代位は「任意代位」と条文のタイトルがついていましたが、そのような呼び分けは条文上なくなりました。
(2)代位の割合(改正案501条)
上の例で、保証人の他に物上保証人がいる場合や、保証人が複数いる場合など、担保を提供している立場の人が複数いる場合には、その人たち同士の間では負担がなるべく平等になるように、代位の割合を制限するというルールがあります。
現行民法では501条後段が詳しいルールを規定していますが、抜けている部分も多く、解釈で補われてきました。
改正案では、概要以下のとおり、このルールを整理し直し、解釈で補われてきた部分を明文化するとともに、若干の修正を加えています。
① 債務者から抵当不動産を譲り受けた人(第三取得者といいます。)は債務者に準じて扱われ、保証人や物上保証人に対して代位することはできないし(改正案501条3項1号)、保証人や物上保証人からは100%代位される(同条1項)。
② 物上保証人同士、第三取得者同士では、抵当不動産の価格の割合で代位できる(同条3項2号、3号)。
③ 保証人同士の代位割合に関しては、人数に応じた等分の割合で代位できるという解釈が確立していますが、その点は規定を設けず、その代わり保証人間の求償権が代位の上限となる点を規定しました(同条2項)。
④ 物上保証人と保証人との間で代位する場合には、まず人数で割り、その後、物上保証人が複数いる場合には物上保証人の分を不動産価格で割り付け直した割合で代位できる(同条3項4号)。
⑤ 債務者からの第三取得者から、さらに抵当不動産を譲り受けた人は、債務者からの第三取得者と同じに扱う(同条3項5号)。
⑥ 物上保証人からの第三取得者は、物上保証人と同じに扱う(同条3項5号)。
また、修正点として、従来、保証人が物上保証人や第三取得者の不動産について代位する場合(つまり、抵当権等の担保物権を実行しようとする場合)には代位の付記登記をしなければならないというルールがありましたが、改正案ではこれが不要とされました。
(3)一部代位(改正案502条)
上の例で、保証人が100万円だけ返済した場合のように、債務の一部しか弁済しなかった場合には、代位も一部だけとなり、債権者と並んで抵当権等の権利を行使することになります。
このことを現行民法は「弁済をした価額に応じて、債権者とともにその権利を行使する」とだけ規定していたので、代位者が勝手に抵当権を実行できるかどうかが明らかでなく、古い判例はこれを可能と解していました。
しかし、抵当不動産の価格が上昇傾向にあるような場合、債権者は価格が上がってから回収しようと考えることもあり、代位者に勝手に抵当権を実行されてしまうのは不利益です。
そこで、改正案では「債権者の同意」を要件として追加し、代位者が勝手に抵当権を実行することはできないようにしました(改正案502条1項)。
一方、債権者の方は勝手に抵当権を実行できることとされました(同条2項)。
また、抵当権実行の結果、不動産が250万円でしか売れなかったとします。この場合、弁済割合に応じて50万円と200万円で按分するのではなく、債権者が優先的に全額を回収します。
従来の判例の解釈であり、改正案では明文化されました(同条3項)。
抵当権以外の担保権にも適用がある点では、判例法理の拡張です。
要するに、一部弁済があったからといって債権者がそれまでより不利益を被ることは一切ないようにしているのです。
(4)担保保存義務(改正案504条)
以上のような代位の制度がある以上、債権者が持っている担保がきちんと保存されているかどうかは、保証人や物上保証人等の代位権者にとって重大な関心事です。
そこで、債権者が故意過失により担保を喪失・減少させた場合には、代位権者がその分の責任を免れるという形で代位への期待が保護されています。
もっとも、銀行の貸付などでは担保の差し替えが頻繁に行われ、これをいちいち担保保存義務違反と言われては困るという事情があります。
そこで、改正案では担保の喪失・減少に合理的な理由がある場合には、上記のルールを適用しないという例外規定を設けました(改正案504条2項)。
また、担保保存義務違反の場合に、代位権者が責任を免れるということから派生して、代位権者が物上保証人の場合には、抵当不動産を譲り受けた第三取得者も同様に責任を免れるという判例があり、これも明文化されました(同条1項後段)。
終わりに
以上が弁済に関する改正内容です。
弁済は、適用範囲が非常に幅広い分野ですので、一通り確認しておくと役に立つかと思います。
受領遅滞などによる弁済のトラブル、供託などでお困りの方、名古屋駅前の中部法律事務所にご相談ください。