今回は、簡単・分かりやすい民法改正解説シリーズの第19弾です。
前回まで、4回に分けて、債権譲渡の改正を説明・解説しました。
債権譲渡は、ある1本の債権について、債権者が入れ替わることです。
同じように、債務者が入れ替わることを債務引受(さいむひきうけ)といいます。
また、債権も債務もひっくるめて、契約の当事者としての地位を第三者に引き継がせることを、契約上の地位の移転といいます。
債務引受や契約上の地位の移転については、現行の民法にはまったく規定がありませんでしたが、今回の民法改正に当たり、新しく一連の規定が設けられることになりました。
今回は、債務引き受けと契約上の地位の移転の改正の前編として、債務引き受けの基本と、債務引き受けの内、併存的債務引き受け関する改正・新規定を、説明・解説していきます。
債務引き受けの基本
(1)債権譲渡との違い
例えば、貸金債権の債権者Aと債務者Bがいたとします。
貸金債権に譲渡禁止特約が付いていない限り、AはBに何の断りもなく、第三者Cに債権を譲渡することができます。債権者がCに変わっても、Bはお金を返せばいいだけなので特に困りません。
しかし、Bが第三者Dに債務を引き受けてもらうことはどうでしょうか。
AにとってはBの経済的信用も考えてお金を貸しているのに、勝手にDと入れ替わられては困ります。
このように、債権譲渡は譲渡人と譲受人との合意により原則自由にできるというルールで問題ないのに対し、債務引受には一定の限界を考える必要があります。
(2)債務引き受けの分類
ところで、債務引受は、上記のようにBとDが入れ替わるパターンだけではなく、Bは債務者として残りつつDも債務者として加わるというパターンが考えられます。
債務者が入れ替わるものを免責的債務引受、追加されるものを併存的債務引受といいます。
Aの立場から考えると、免責的債務引受はBとDだけで勝手にやられては困りますが、併存的債務引受は返済に責任を持ってくれる人が増えるわけなので、むしろ利益になります。
判例学説上、債務引受にこの2種類があるという理解が確立され、要件効果も分けて論じられてきました。今回の改正では、この従来の理論をベースに、要件効果が整理されて明文化されました。
併存的債務引受
まず、併存的債務引受に関する新設規定を見てみます。
(1)要件
以下では、冒頭の例に従い、債権者をA、債務者をB、引受人をDと表記します。
誰と誰の合意がある場合に、併存的債務引受ができるのかについて、次のようなルールが設けられました。
① ABDの三者間合意(三面契約)
明文規定は置かれませんでしたが、問題なく認められます。
② AD間の合意
この場合も認められます(改正案470条2項)。
Bは債務者が増えることについて知らなくても、またそれがBの意思に反したとしても、Dは債務者として加わることができます。DがBの債務を保証しようとする場合には、AD間の保証契約だけでできることと平仄を合わせたものです。
③ BD間の合意+Aの承諾
BD間の合意のみで併存的債務引受の契約は成立しますが、Aの承諾がなければ効力を生じません(改正案470条3項)。
BD間の合意は、DもBと並んでAに対する弁済をすることを内容とするので、民法537条の「第三者のためにする契約」に該当します。
第三者のためにする契約では、利益を得る第三者が当然に権利を取得するのではなく、受益の意思表示をした時点で権利を取得するとされています(民法537条1項。改正案でも同じ)。
そこで、この場合の併存的債務引受でも、Aの承諾があって初めて債務引受の効果が発生することとされました。
③のタイプの併存的債務引受では、ほかの点でも第三者のためにする契約の規定に従うこととされています(改正案470条4項)。
具体的には、Aが承諾をした後には、BD間が債務引受の合意を解消してやっぱり引受をしないということはできないこと(改正案538条1項)、DはBD間の契約に基づく抗弁をAに対抗できること(改正案539条)などです。
(2)効果
① 基本の効果
併存的債務引受の基本効果は、まずBが負う債務と同じ内容の債務がDにも発生するということです。
Bの債務とDの債務との関係は連帯債務となります(改正案470条1項)。
連帯債務とは、たとえば500万円の債務を二人が連帯して負担する場合、250万円ずつに分割されるのではなく、一人一人が500万円全額について責任を負うということです。
そして、一人が全額を弁済した場合には、連帯債務者同士で求償することができます。
② 抗弁
抗弁とは、契約の無効、取消、解除、弁済、相殺、同時履行など、債務者が債権者に対して債務の履行を拒むことができる事由のことです。
たとえばAB間の契約がAの詐欺によるもので、Bが取消権を有するような場合です。併存的債務引受があった場合、引受の合意の時にBがAに対して持っていた抗弁はDも主張することができます(改正案471条1項)。
このことは、Bが負う債務と同じ内容の債務を負うということの帰結です。
ただし、取消権や解除権を持っているのはあくまでBなので、Dがこれを行使してしまえるわけではなく、仮にBが行使したとすれば支払わなくてもいい額の限度で履行を拒絶できるというだけです(改正案471条2項)。
なお、BがAに対して反対債権を持っている場合の相殺についても、Dにとっては他人の債権であり、勝手に相殺して処分することはできません。連帯債務のルールに従って、負担部分の限度で履行を拒絶できるということになります(改正案489条2項)。
③ 求償
BとDの債務が連帯債務となる結果、どちらかがAに弁済した場合には、連帯債務のルールに従って互いに求償することができます。
終わりに
以上、今回は、債務引き受けと契約上の地位の移転の改正の前編として、債務引き受けの基本と、併存的債務引き受けに関する改正の説明・解説を行いました。
次回は、後編、免責的債務引き受けと契約上の地位の移転について、説明・解説していきます。