今回は,簡単・分かりやすい民法改正解説シリーズの第15弾です。
今回のテーマは,重要な改正点である「債権譲渡」です。
民法改正全体の基本テーマは「現代に合った民法」と「わかりやすい民法」ということでした(本シリーズ・ゼロ参照:(⇒簡単・分かりやすい民法改正解説~シリーズ”ゼロ” 民法改正の意味~)。
債権譲渡に関する改正では、債権譲渡が新しい資金調達の手段として活用されるようになってきていることから、特に前者の要請が強いといえます。
資金調達の支障となっている点をできるだけ取り除くべきという現状評価が、改正の方向性に大きな影響を与えました。
他方、現行の制度の中には債務者の保護に失すると批判される点もあり、改正の中で債務者の保護を拡充する方向性も十分重視されているといえます。
さらに、「わかりやすい民法」の観点から、判例法理の明文化も含まれています。
このような視点を持ちつつ、債権譲渡の改正について、4回に分けて、条文の順に改正内容を見ていきましょう。
第1回目の今回は、改正についてまずは概観の説明・解説を行うのと、債権譲渡の基本となっている条文(現行466条)の改正について、詳しくみていきたいと思います。
債権譲渡の改正の概観
債権譲渡に関する現行の民法の規定といえば、実質的には466条、467条、468条の3か条しかありません。
民法の「債権譲渡」の節の中には、全部で8か条の規定がありますが、469条以降の5か条は、「証券的債権」という特殊な債権に関する規定で、役に立っていなかったので、今回削除されることになりました。
そこで、規定として残され、かつ、改正されることとなった上記3か条について、現行の規定の内容を確認し、合わせて今回の改正内容を概観していきたいと思います。
現行民法466条は、第1項で、債権は譲渡できると規定し、第2項で、特約で譲渡を禁止することもできる(2項本文)と規定しています。ただし、当事者間で譲渡を禁止したとしても、善意の第三者(譲渡の禁止を知らずに債権の譲渡を受けた者)に対抗できない(同項ただし書)と規定しています。
改正案では、2項の譲渡禁止特約の効力について大きな変更があったほか、466条の2から466条の5までの規定を新設し、関連した規定置きました。
また、466条の6において、将来の債権譲渡に関する規定を新設しました。
さらに、債務者が債権譲渡について異議をとどめないで承諾した場合、新たな債権者に対して、旧債権者に対してい有していた抗弁(債務の履行を拒絶できる理由)を主張できないという制度(現行民法468条)について、同制度を廃止し、相殺の抗弁について特別の規定が置かれました。
以上を、表形式でまとめると、以下の通りとなります。
現行民法 |
改正の概観 |
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466条 譲渡性と譲渡禁止特約 |
債権は譲渡できる(1項)。しかし特約で譲渡を禁止することもできる(2項本文)。ただし譲渡禁止特約は善意の第三者に対抗できない(同項ただし書)。 |
466条 |
譲渡禁止特約の効力について大きな変更があり、関連した規定が置かれました。 |
466条の2 |
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466条の3 |
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466条の4 |
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466条の5 |
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(従来は規定なし) |
466条の6 |
将来債権譲渡について規定が新設されました。 |
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467条 対抗要件 |
債務者対抗要件は通知か承諾(1項)。第三者対抗要件は確定日付のある通知か承諾(2項)。 |
467条 |
対抗要件制度には変更なしです。 |
468条 抗弁の切断 |
異議をとどめない承諾により譲渡前に有していた抗弁を主張できなくなる(1項)。 |
468条 |
異議をとどめない承諾は廃止されました。また、相殺の抗弁について特別の規定が置かれました。 |
469条 |
改正案466条(譲渡性と譲渡制限特約)について
債権譲渡に関する改正として、まずは、その基本的条項である現行民法466条・改正案466条について、見ていきましょう。
債権は譲渡できるという原則には、もちろん変更がありません(改正案466条1項)。
変更があるのは、従来「前項の規定は、当事者が反対の意思を表示した場合には、適用しない」(現行民法466条2項本文)とシンプルに規定されていた譲渡禁止特約についてです。
改正案では、「当事者が債権の譲渡を禁止し、又は制限する旨の意思表示(譲渡制限の意思表示)をしたときであっても、債権の譲渡は、その効力を妨げられない」(改正案466条2項)と規定される予定です。
ところで、「譲渡禁止特約」と「譲渡制限特約」は違うのでしょうか。
改正案では「譲渡制限の意思表示」という用語になっていますが、「意思表示」というのは実際には例の少ない遺言などの単独行為も含める趣旨で意思表示と言っているだけで、事実上ほぼ特約のことです。
「制限」には、禁止よりももう少し広い意味があって、譲渡禁止特約のほか、禁止はしない、つまり譲渡しても契約違反にはならないけれど譲渡の効果は制限されるという特約を含む趣旨だそうです。
改正内容を理解する上では、「譲渡禁止特約」を念頭に置いておけば十分だと思います。
譲渡制限特約の効果について(相対的効力説の採用)
譲渡禁止特約の効果について、現行民法の規定では、譲渡禁止特約により債権の譲渡性を承認する466条1項が適用されなくなるのですから、素直に読めば、当事者の合意により譲渡できない債権を作り出すことができるというイメージです。
そこで、譲渡禁止特約付きの債権が譲渡された場合、その譲渡は無効になるという理解が一般的でした(絶対的効力説)。
ただし善意(特約を知らないこと)の譲受人は保護されますから、この場合は有効ということになります。
しかし、条文上はこのことが明確でないうえ、そもそも譲渡自体が無効になるのは行き過ぎではないかとも考えられます。
譲渡制限特約というのは、弁済の相手方を固定することで、事務の煩雑化を避けたり誤弁済のリスクを回避したりするという債務者の利益のためにあるものです。
だとすると、その利益が失われないならば、譲渡自体まで無効とする必要はないといえそうです。
譲渡自体は有効となるのであれば、債権譲渡を利用した資金調達の促進にもつながります。
そこで、この点の考え方が変更されることになりました。
改正案では、譲渡制限特約付きの債権が譲渡された場合でも、その譲渡は有効です(改正案466条2項)。
債権の譲受人が譲渡制限特約について悪意・重過失であっても有効ですが、債務者は、その譲受人からの履行の請求を拒んで、元の債権者(譲渡人)に対して、弁済することができます(改正案466条3項)。
譲渡自体は有効としながら、債務者にとっての弁済の相手方固定の利益は引き続き保護されているわけです。
したがって、債務者にとっては大きな違いはありません。
違いが出るのは、悪意・重過失の譲受人も有効に債権を取得できる点です。
従来の絶対的効力説に対して、この考え方を相対的効力説といいます。
なお、譲受人が悪意の場合だけでなく重過失の場合も履行拒絶できるとされた点は、重過失は悪意と同視できるとしていた従来の判例を明文化したことになります。
終わりに
今回は、債権譲渡に関する改正の第1回として、改正の概観と、債権譲渡の基本である譲渡制限特約(改正案466条)の改正について、見てきました。
次回、第2回として、引き続き、譲渡制限特約に関連した改正点(改正案466条第4項から466条の5)を見ていきます。