今回は、簡単・分かりやすい民法改正解説シリーズの第18弾です。
今回は、債権譲渡に関する改正の最終回(第4回)です。
今回の民法改正で、債務者が債権譲渡について異議をとどめないで承諾した場合、新たな債権者に対して、旧債権者に対してい有していた抗弁(債務の履行を拒絶できる理由)を主張できないという制度(現行民法468条。無留保承諾、抗弁の切断)が廃止されることとなります。
この点について、詳しく説明・解説しつつ、新たに規定される相殺の抗弁の規定について、見ていきましょう。
(第1回コラムはこちら:簡単・分かりやすい民法改正解説~シリーズ15 債権譲渡①改正の概観・譲渡制限特約~)
(第2回コラムはこちら:簡単・分かりやすい民法改正解説~シリーズ16 債権譲渡②譲渡制限特約に関連する改正~)
(第3回コラムはこちら:簡単・分かりやすい民法改正解説~シリーズ17 債権譲渡③将来債権の譲渡~)
異議をとどめない承諾の廃止(現行民法468条)
債務者は、債権者に対して抗弁を持っていることがあります。
抗弁とは、たとえば契約の無効、取消、解除、弁済、相殺、同時履行など、債務の履行を拒むことができる理由のことです。
抗弁付きの債権が譲渡された場合、債務者は、譲渡人に対して有していた抗弁を、譲受人に対しても主張できるのかという問題があります。
この問題について、従来の民法では二つのルールを置いていました。
① 債権譲渡について譲渡人が通知をした時点を基準に、それ以前の抗弁は主張でき、それ以後の抗弁は主張できない(現行民法468条2項)。
② 債権譲渡について債務者が「異議をとどめない承諾」をした場合は、以前の抗弁であっても主張できなくなる(現行民法468条1項)。
「異議をとどめない」とは、債務者が承諾するにあたり、抗弁について何の留保も付さないことで、「承諾」とは譲渡について「承知しました」「わかりました」程度の表明でよいとされます。
しかし、それだけで本来主張できたはずの抗弁を主張できなくなる(抗弁の切断と呼ばれます)という重大な効果を発生させるのは、債務者にとって不測の不利益となりかねず、債務者の保護に欠けると強く批判されていました。
そこで、改正案では②の異議をとどめない承諾の制度を廃止し、①のルールだけを残しました。
②の廃止に伴って、債務者の承諾にも譲渡人の通知と同じく将来の抗弁を切断する効果だけ認めればよいので、通知と承諾を合わせて「対抗要件具備時まで」と表現しています(改正案468条1項)。
もっとも、債務者が別途抗弁放棄の意思表示をすることは自由です。
たとえば、債権譲渡の通知に際してこの文書にサインしてください、などと求められ、その文書の中に抗弁放棄の一文が入っていれば、従来の異議をとどめない承諾のような効果が生じると思われますので注意は必要です。
ただし、抗弁放棄の意思表示については意思表示の瑕疵に関する規定(錯誤、詐欺等)の適用があるので、従来に比して債務者の保護が図られているといえます。
なお、特則として、次の各場合にはそれぞれ債務者対抗要件具備時よりも遅い時点までの抗弁が認められます(同条2項)。
これらの場合には債務者対抗要件が具備されたとしても、それだけではなお弁済の相手方固定の利益が保護されているため、その保護がなくなる時点までは抗弁の切断をすべきではないからです。
・譲渡制限特約付き債権の譲渡後、譲受人からの催告(改正案466条4項)によって履行を拒絶できなくなる場合には、催告の期間経過時点
・譲渡制限特約付き債権の譲渡後、譲渡人の破産により譲受人が供託請求権(改正案466条の3)を行使した場合には、供託請求を受けた時点
相殺の抗弁(改正案469条)
相殺は抗弁の一種ですが、上記のような債務者対抗要件具備時の前後というルールでは単純にしきれない特殊性があります。
すなわち、相殺を主張するには自分が反対債権を持っていなければなりませんが、
①その反対債権が債務者対抗要件具備の時にはすでに相殺を主張できる状態になっていなければならないのか、譲渡された債権より弁済期が遅くてもよいのか
②債務者対抗要件具備の時に反対債権がまだ発生していなかったとしても相殺の期待を保護すべき場合があるのではないか
といった点がなお不明確なためです。
そこで、改正案では、相殺の抗弁について、これらの点を明らかにするため、以下のとおり、規定を置きました。
①の点について、従来の判例が、反対債権が債務者対抗要件具備時にすでに発生している限り、相殺適状も弁済期の先後も問わず相殺できるという結論を採用しており、改正案はこれを明文化しました(改正案469条1項)。
②の点ついて、将来債権の譲渡が広く行われるようになっている現状に鑑みて、これから発生する債務をこれから発生する債権で相殺しようと考える債務者の期待を保護する必要性が意識され、債務者対抗要件具備時にまだ発生していない債権であっても、次の二つの場合には相殺を主張できることとしました(同条2項)。
・債務者対抗要件具備時より前の原因に基づいて生じた債権(同項1号)
・譲渡された債権と同一の契約に基づいて生じた債権(同項2号)
そして、相殺以外の一般の抗弁と同様に、譲渡制限特約が付いていたために弁済の相手方固定の効果が働いている場面(悪意・重過失の譲受人に対して債務者が履行を拒絶している場合)では、基準時を債務者対抗要件具備時よりも遅らせる特則が置かれました(改正案469条3項)。
内容は改正案468条2項と同じです。
終わりに
以上、第1回から第4回に分けて、債権譲渡の改正を見てきました。
債権譲渡の分野はやや専門的ですが、実務上重要な規律を多く含んでおり、中小企業様、個人事業主様であっても関係してくる機会は多いのではないかと思います。本シリーズでは改正点を説明しながら、できるだけその分野の基本的なルールも理解できるような記述を心がけています。
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