今回は,簡単・分かりやすい民法改正解説シリーズの第13弾です。
今回は,前回の続き、大幅に改正されることとなった「保証」の第3回です。
(第1回コラムはこちら:簡単・分かりやすい民法改正解説~シリーズ11 保証①改正の概要~)
(第2回コラムはこちら:簡単・分かりやすい民法改正解説~シリーズ12 保証②契約後の情報提供義務ほか~)
前回は、重要な改正点である「保証人に対する主債務の履行状況に関する情報提供義務」(改正案458条の2)などについて、お話ししました。
保証に関する第1回のコラム(民法改正解説シリーズ第11弾)で説明したとおり、保証は、大きく分けて、①保証人保護の強化、②規定の不合理な点の修正、③確立した解釈や判例を明文化するという、改正が行われます。
この3つの内、今回は、①にあたる改正として根保証に関する改正と、②にあたる改正として求償権に関する改正について、条文の順に、詳しく見ていきます。
求償権に関する規定の整理
求償権とは、簡単にいうと、主債務を肩代わりして支払った保証人が、主債務者に対して支払った分を返すように請求する権利です。
求償できる範囲は、主債務者と保証人との関係性の違いによって、利息も含むかどうかなど、違いが設けられています。
関係性の違いとは、主債務者の委託を受けて保証人となっているのかどうか、保証人となることが主債務者の意思に反していないかどうかであり、この組み合わせにより3種類に分かれます。
①委託を受けた保証人(受託保証人)
②委託を受けず(無委託保証人)、主債務者の意思に反しない保証人
③委託を受けず(無委託保証人)、主債務者の意思に反する保証人
従来からこの分類に従って求償権の範囲が定められてきましたが、今回、主債務の弁済期到来前に保証人が弁済した場合に関する処理が必要だと考えられ、その場合には①の保証人でも②と同様の扱いにする方向で規定が整理されました(改正案459条の2、462条3項)。
また、①の保証人だけに認められている事前求償という制度に関し、従来事前求償権が発生する場合の一つとされていた「弁済期が不確定」という事由については、そもそも事前求償になじまないという理由で削除するとともに、別の条文に分かれていた規定を一カ所にまとめる改正を行いました(改正案460条)。
さらに、従来、①〜③のいずれの保証人にも、保証債務を履行する前後に、主債務者への通知義務が定められており(現行民法463条)、通知を怠った場合には求償できる範囲が制限されるという効果がありました。しかし、もともと求償範囲に制限がある②と③の保証人の場合、通知を怠っても結局同じだということが指摘され、同じになる部分を除外する改正が行われました。
以下に、求償権に関する改正をまとめました。
|
①受託保証人 |
②意思に反しない無委託保証人 |
③意思に反する無委託保証人 |
求償の範囲(原則) |
支出した額と主債務消滅額の小さい方+債務消滅行為の日以後の法定利息、避けられなかった費用その他の損害賠償(改正案459条) |
主債務者が当時利益を受けた限度(当時相殺等の抗弁を有していた場合にはその分は求償できない)(改正案462条1項) |
主債務者が現に利益を受けている限度(求償時点で相殺等の抗弁を有していた場合にはその分は求償できない)(改正案462条2項) |
期限前弁済の場合の求償の範囲 ※この場合、求償権の行使時期が弁済期到来後に制限される(改正案459条の2第3項、462条3項) |
主債務者が当時利益を受けた限度(当時相殺等の抗弁を有していた場合にはその分は求償できない)+弁済期以後の法定利息、弁済期だったとしても避けられなかった費用その他の損害賠償(改正案459条の2) |
同上 |
同上 |
事前求償権 |
あり(改正案460条) |
なし |
なし |
保証人の事前通知義務 |
あり(改正案463条1項) |
なし |
なし |
保証人の事後通知義務 |
あり(改正案463条3項) |
あり(改正案463条3項) |
なし |
主債務者の事後通知義務 |
あり(改正案463条2項) |
なし |
なし |
根保証規制の拡張
根保証とは、保証する債務が特定しておらず、継続した期間に発生する一定の種類の債務をまとめて保証する形態のことをいいます。
根保証では、債務の総額があらかじめ決まっていないため、保証人にとって危険度の高いタイプの契約といえます。
そのため、根保証に関しては、平成16年の民法改正で、規制が設けられました。
ただし、この際の規制は、根保証の中でも特に典型的な貸金等債務のみを対象とする規制でした。
つまり、貸金等根保証ではない根保証、例えば、不動産賃借人の根保証、継続的売買の根保証などについては、将来の検討課題として残されていました。
今回の改正では、貸金等根保証の規制を拡張して、個人根保証全般に及ぼすかどうかが一つのテーマとして検討されました。
以下では、従来の規制の内容を確認しながら、拡張の有無を見ていきます。
①個人貸金等根保証は、極度額(根保証の上限額)の定めがなければ無効(現行民法462条の2)であると規制されています。
この規制は、個人根保証全般に拡張されることとなりました(改正案465条の2)。
②個人貸金等根保証では、保証額(元本)は、保証から5年以内、期間の定めがなければ3年以内に、また、期間を途中で変更する場合でも当初の契約から5年以内に元本が確定しなければならないとされています(現行民法465条の3)。
この規制については、個人根保証全般には拡張されませんでした(改正案465条の3)。
③個人貸金等根保証では、法定の元本確定事由が定められています(現行民法465条の4)。
個人根保証全般について、これまで法定の元本確定事由はありませんでしたが、保証人に対する強制執行等、保証人の破産、主債務者の死亡、保証人の死亡の場合には、元本が確定するとして、個人貸金等根保証の規制の一部が、個人根保証全般にも拡張されることとなりました(改正案465条の4第1項)。
④法人根保証の求償権を個人が保証する場合、個人等根保証では、上記①と②の規制されています。
この規制の内、①について、個人根保証全般に拡張されることとなりました(改正案465条の5第1項)。
なお、②と③の一部について、例えば不動産賃借人の債務を個人が根保証している場合等を想定すると、主債務者の契約が存続していて債権者がそれを打ち切ることができないのに、根保証がそれをカバーできなくなる事態が考えられるなどの理由で、拡張が見送られました。
終わりに
以上、求償権に関する整理の改正と、根保証規制の拡張について、見てきました。
次回、第4回で、保証に関する改正の解説は最後です。次回は、会社が金融機関などから借り入れする際に、経営者個人やその親族などが行う保証について、詳しく説明・解説していきます。