法人が破産する際、法人の代表者個人が破産するというケースは、少なくありません。そのようなケースでは、個人の破産と法人の破産は違うのですか?と聞かれることもあります。
ここでは、個人破産と法人破産の違いについて、考えてみます。
法人は、破産手続きによって法人自体が消滅
法人は、破産手続きによって法人自体が消滅します。
個人は、破産してもその人自体が消滅するわけではなく、その後も個人として存続・生活が続いていきます。
この根本的違いから、法律や制度上、諸々の違いが生じています。
破産法上・制度上の違い
《財産処分についての違い》
法人は、破産によって法人が消滅しますので、一切の財産を処分することになります。
これに対して、個人は、破産後も生活していかなければなりませんし、経済生活の再生の機会の確保を図るというのが破産の目的でもあります。そこで、個人の破産では、経済生活の再生のため、自由財産(99万円までの現金など)の保有が認められています。
《免責(債務の消滅)についての違い》
法人は、破産によって法人が消滅、つまり、債務の主体が消滅しますので、破産によってすべての債務が消滅します。債務の消滅にあたって特別な手続きはありません。
これに対して、個人の破産では、破産手続き自体では、債務が消滅することはありません。破産手続きとは別に、債務の免責許可申立手続き及び免責許可決定を受けることによって、免責(支払い義務を免れる)されるにすぎません。この免責許可手続きを経ても免責されない非免責債権(公租公課など)がありますし、免責不許可事由という一定の事由がある場合には、債務が免責されないこともあります。
実務上の違い
以上のような、破産法上の違いのほかに、個人と法人(特に会社)の実情に応じた違いもあります。
《債務額の多寡》
一般的に、法人破産の方が個人破産に比して債務額が多額になります。
法人の規模や業種等によっては、負債総額が億を超えるなど、大規模な破産になる場合があります。
《債権者の顔ぶれ・数》
個人の破産の場合、一般的に、債権者は、個人を相手に貸付を行う消費者金融、クレジット会社や銀行、親戚や友人・知人などに限られています。
これに対して、法人の場合、銀行などの金融機関のほか、仕入れ先やリース会社など取引関係から生じる債権者が破産手続きに加わります。そして、それらの債権者が加わることによって、個人破産の場合に比して、法人破産の方が債権者の数が多くなります。
《裁判費用や弁護士費用》
以上のように、債務の額や債権者の数が個人より法人の方が多くなることや、すべての財産を処分しなければならないことなどから、一般的に、法人破産は、個人破産に比して、裁判費用や弁護士費用がかかります。
名古屋地方裁判所の裁判費用を例にしますと、法人の自己破産(通常の管財事件)の予納金が60万円~であるのに対し、個人の自己破産(通常の管財事件)の予納金は40万円~とされています(但し、少額予納管財事件の場合の予納金は同額(20万円)です)。
★まとめ★
法人破産:法人自体が消滅 → 一切の財産を処分、債務も消滅 債務額や債権者数が多くなり、費用もかかることが多い。
個人破産:個人は消滅しない → 破産財産を処分、自由財産は保有できる。免責許可申立手続きによって、債務を免責。ただし、免責不許可事由や非免責債権がある。