登記の懈怠とは,登記事項に変更が生じた場合に,本来登記をしなければならないにも関わらず,登記がなされていないことをいいます。
そもそも登記には,任意的な登記と強制的な登記があります。
任意的な登記の代表的なものは,不動産に関する登記のうち,権利に関する登記です。例えば,相続登記や不動産の売買登記,贈与登記などです。これらは,登記をするかしないかは任意であり,登記を怠ったからといって,何か制裁があるわけではありません。
よく相続登記を長年放置して,不動産の名義人が祖父母の代のままになっている不動産がありますが,これは特に違法ではありません。
一方,強制的な登記の代表例は,株式会社など法人に関する登記です。会社の本店が移転した,事業目的を変更した,役員を変更したなど,法人の重要な事項については,変更が生じたときから2週間以内(支店では3週間以内)に,登記をしなければならない,と会社法に規定されています。
他にも,不動産の表題部に関する登記(建物の新築や増築など)も,強制的な登記の例です。例えば,建物を新築した場合には,1ヶ月以内に登記をしなければならないことになっています。したがって,たまに登記がなされていない建物がありますが,法律上は違法ということになります。
注意しなければならないのは,強制的な登記については,過料という行政罰の制裁がある点です。会社関係の登記であれば,100万円以下,不動産の表題登記であれば10万円以下の範囲で裁判所が金額を決定します。
ただし,法文上はそのように規定されていますが,実際の運用は不明確な部分が多いです。
例えば,不動産の表題登記(建物の新築や増築など)を怠っていたケースで,過料が科せられた,という話は聞いたことがありません。また,会社の登記についても,過料の有無や金額はまちまちで,明確な基準は存在しないようです。
感覚的には,登記事項に変更が生じたときから3ヶ月以内に登記申請をすれば,通常のケースでは過料の制裁はないものと思われます。半年や1年を超えて怠っていれば,通知が来るリスクが高まるイメージです。金額としては,期間や懈怠事項に応じて1万~十数万ではないでしょうか。
過料は,登記申請を受け付けた登記官が,登記簿と照らし合わせることによって懈怠を発見し,裁判所に通知し,裁判所が過料の制裁を課すかどうか,課すとすれば金額をいくらにするかを決めています。
この点,会社に関する重要事項を法が登記事項と定め,それを公開することによって商取引の安全を図るという制度の趣旨からすれば,会社の規模や変更事項の重要度によっても,判断が変わるように思います。
例えば,1人会社の代表者の住所変更登記と,資本金100億円の会社の本店移転登記では,過料の制裁によって取引の安全を守る重要性が異なるように思われます。
そうはいっても,法律を守ることは会社のコンプライアンスにとって重要なことであり,過料の制裁を受けた事実は上場する際のマイナス要因となりかねません。したがって,登記事項に変更が生じた場合には,速やかに登記申請を行うことをお勧めします。
(司法書士 尾﨑政友)