遺産分割協議は成立(合意)したものの、他の相続人が登記手続きに協力してくれない場合、どのようにすればよいでしょうか。
遺産分割協議が成立し、単独で相続することになった相続人は、単独で不動産の名義を変更する登記申請をすることができます(不動産登記法63条2項)。ただし、その際に相続を証する書面として、戸籍や遺産分割協議書、他の相続人の印鑑証明書を添付する必要があります。そのため、他の相続人が印鑑証明書の提出を拒む場合は、事実上登記申請を行うことができなくなります。
このような場合、遺産分割協議書が手元にあるのであれば、手続に協力しない相続人を相手に、遺産分割協議書の真否確認の訴えを提起し、その勝訴判決を相続を証する書面の一部として単独で登記申請を行うことが可能です(昭和55年11月20日民三6726号民事局第三課長回答)。
なお、登記名義が被相続人のままである場合、遺産分割で単独相続した相続人は、前述のとおり単独で登記申請ができることから、手続に協力しない相続人を相手に、「相続を原因として所有権移転登記手続きをせよ。」との確定判決を得たとしても、その判決によって相続登記をすることはできません(昭和53年3月15日民三1524号法務省民事局第三課長依命回答)。これは、他の相続人は相続による登記申請人ではないため、確定判決によって登記申請意思を擬制しても意味がないためです。
実務上は、法定相続分の共同相続登記を単独で申請した上で、手続に協力しない相続人を相手に、「年月日遺産分割を原因とする○○持分全部移転登記手続きをせよ」との確定判決を得ることで、手続に協力しない相続人の印鑑証明書なしに登記をすることが可能です。
これは、一旦共同相続登記が入った後では、遺産分割による移転登記は登記権利者と登記義務者の共同申請となるため、確定判決によって協力しない相続人の登記申請意思を擬制できるためです。なお、法定相続分による共同相続登記自体は、相続人の一人から単独申請で行うことができ、その際の相続を証する書面に印鑑証明書の添付は不要です。
遺産分割では、付き合いのうすい相続人が手続に協力してくれない、あるいは無関心、というケースがあります。したがって、必要な実印や印鑑証明書は、早めにもらっておくことが望ましいと思います。
なお、今回のようなケースで、遺産分割協議は成立して、自分が単独で相続したのだから、放置しても大丈夫ではないか、単なる手続の問題ではないか、と考える方もいるかと思います。しかし、遺産分割による権利の取得は、第三者との関係では、登記をしなければ遺産分割後に権利を取得した第三者に対して法定相続分を超える権利を主張することはできません(昭和46年1月26日最高裁判決)。
したがって、遺産分割によって不動産を取得した方は、速やかに登記申請を行う必要があります。
(司法書士 尾﨑政友)