近年、本人確認が厳しくなっています。銀行や市役所の窓口、携帯の申し込みなど生活のあらゆる場面で、免許証などの提示を求められます。弁護士や司法書士も、依頼者との面談時などに身分証の提示を求めることが通例です。
先日(といっても大分前ですが)、とある研修において、警察関係者の方に運転免許証とパスポートの偽造についてお話をお伺いする機会がありました。研修時間は90分くらいでしたが、80分くらいはパスポートの話でした。
パスポートは、日本の最先端の技術を結集して作成されているようです。詳細は控えますが、例えば、見る角度によって模様が変わるホログラム、オフセット印刷、色や文字の印刷などあらゆる箇所に偽造を防止するための工夫があるようです。
一方、運転免許証は、それほど高度な技術は採用されていないとのことです。
そこで疑問です。
本人確認に使用されている頻度、社会生活における重要性という観点では、運転免許証のほうがはるかに高いのに、なぜそれほど高度な技術は使用されていないのでしょうか。
一つには、役割が違う、ということです。パスポートは、海外において日本国民であることの唯一の証明書です。いざというときは税金を使ったりして救助するなど、国民としてのさまざまな保護を受けられる証明書です。一方、運転免許証は運転ができるということの証明にすぎません。
警察に言わせると、結果的に運転免許証が本人確認に利用されているだけであって、運転免許証そのものは運転ができることを認めた証明にすぎないわけです。それなのに、広く一般的に本人確認に耐えられるものを作成せよ、というのは筋違いというものなのでしょう。
もう一つは、コストの問題です。運転免許証にパスポートのような高度な技術を採用していたら発行手数料が跳ね上がってしまいます。
そうだとしても、運転免許証の本人確認に利用されている頻度・役割からすると、もっと偽造防止の対策をとるべきではないかと思い、質問してみました。
その答えは、「犯罪組織も相手を見ている」というものでした。
つまり、パスポートの管轄は外務省です。それに対して、運転免許証は警察の管轄です。したがって、警察が発行する証明書を偽造するということは、警察組織を敵に回すということなので、安易に手を出さない、ということなのでしょう。
(司法書士 尾﨑政友)