以前権利書のお話をしましたので、今回は登記識別情報についてです。
そもそも登記識別情報とは
登記識別情報とは、12桁の英数字からなるパスワードのような情報で、従来の権利書に替わる情報です。
新たに登記名義人となる方(登記簿に名前が載る方)に対して、法務局が通知します(実際は司法書士が代理受領してお渡しすることがほとんどです)。
この情報は、従来の権利書と異なり、登記名義人・不動産ごとに発行されます。例えば、Aさんが相続で土地2筆、建物1個を取得したとすると、「相続人1人×不動産3つ=3通」の登記識別情報が発行されます。
従来の権利書と異なる点
従来の権利書との違いは、権利書が「物」であるのに対し、登記識別情報は「情報」である、という点です。すなわち、権利書は登記済の判が押された書面(物)ですので、紛失したり盗まれたりすると、物がないのですぐに分かりますが、登記識別情報は情報ですので、通知書が手元にあったとしても、コピーやメモされるなどして盗まれている可能性があるということです。
そこで、制度上、紛失や盗難されたおそれのある場合には、法務局に対して登記識別情報の失効の申し出をすることが可能です。失効の申し出をすると、その不動産の売却や担保設定の際には、司法書士などが本人確認した書面を提出するか、登記簿上の住所に法務局が書面で意思確認を行う方法(事前通知)でしか、売却などができなくなります。これは権利書にはない制度です。
登記識別情報の問題点
そもそも登記識別情報は、電子政府構想の一環として導入された制度です。登記申請などに関する申請と完了処理をオンラインですることにより、行政コストを下げるという理念はわかるのですが、実務上大きな課題があります。
まず、全ての必要書類を電子化することは難しいという点です。権利書がパスワードに変わったとしても、印鑑証明書の電子化や本人の認証などは、さまざまな事前手続きが必要となりますし、一般の方が費用と時間をかけてそんなややこしいことをするとは思えません。
次に、司法書士にとって管理するのが難しい点があります。例えば、権利書をお預かりして、登記完了後に権利書を返却すれば、司法書士の手元に権利書はありません。しかし、登記識別情報であれば、情報ですので、一旦法務局に提供する際に情報を見る必要があります。そしてそれは情報の記載された紙を返却したとしても、情報として残る可能性があります。もし印鑑証明書も、印鑑証明情報のようなものになれば、悪用のリスクのない管理のためにさまざまな対処をする必要が出てくると思います。
そして何よりも、すべてを電子化するのは、取引当事者の期待とずれていると思われる点です。不動産を売る人は、印鑑証明情報や本人認証カードなどをわざわざ事前登録して取引したいと思わないでしょうし、買う人も法務局からパソコン上にパスワードが通知されてあなたの不動産のパスワードは「A32kfDg98y9i」です、と言われるよりも、買った証のきちんとした書類を求めるものだと思います。
少なくとも印鑑証明書の電子化が広く普及するまでは、登記申請の完全オンライン化も難しいかと思います。その意味では、登記識別情報の制度は、少し時代を先取りしすぎた制度だったのかもしれません。
(司法書士 尾﨑政友)