司法書士は、仕事柄権利書に接する機会が多いです。不動産の売買、
住宅ローンの担保設定など、多くの登記で権利書が登場します。
権利書はそもそも、本人確認・意思確認を行うための書類の一つです。
つまり、権利書を司法書士・法務局に提出するということは、権利書の
所持者(=登記簿上の所有権の名義人)が、真意で、「売却します」、
「担保を設定します」、といった意思を表明しているという風に、制度上
みなされるということです。
その意味で、確かに重要な書類であることには間違いないのですが、
少し誤解されている方もいらっしゃいます。そこで、巷でよくある誤解
の例を挙げたいと思います。
誤解① 権利書は、所有権者であることの証明である
権利書自体は、所有権の有無とは関係がありません。よく権利書のことを
「権利証」と記載されている例を見かけますが、登記された権利の証明自体
は登記簿(登記事項証明書)の役割ですので、権利書が権利を証明している
わけではありません。その意味で、権利証という表記にはやや違和感を覚え
ます。
ただし、所有権者が不明確な場合などに、間接的な手段として、権利書が
利用されることが実務上ありますので、補完的な意味では、所有権者としての
証明に使われることがあるといえるでしょう。
誤解② 権利書を預かっておけば、勝手に処分できないはずだ
相手が勝手に不動産を処分(売却など)できないように、権利書を預かって
おく、という方法がとられることがあります。確かに、売却や担保設定の際には
権利書が必要書類ではありますが、ない場合には代替手続がありますので、制度
上は権利書を預かったとしても,相手方が勝手に処分できないということはありません。
誤解③ 権利書を盗まれると、大変なことになる
大変なことになる、というのは、勝手に名義を変えられるとかそういうこと
を想定しているのですが、実際はそう簡単ではありません。
なぜなら、権利書が必要な登記手続きのほとんどは、実印での押印と印鑑証
明書の添付がセットになっているためです。したがって、逆に言うと,権利書と
実印と印鑑証明書がセットで盗まれた場合には、早急な対応が必要です。
なお,司法書士会や法務局に対し,上記セットが盗難されたような場合には,
申出をすることにより,必要な対応をとってもらえることがあります。
※なお、現在はすべての法務局がオンライン庁に指定されたため、新規の権利書
の発行は廃止され、それに替わるものとして、「登記識別情報」というものが
通知されるようになっています。
(司法書士 尾﨑政友)