被相続人と同居していた相続人が、生前に被相続人の預金をほとんど
払い戻し、被相続人が亡くなったときには預金がほとんど無い、という
ケースがよくあります。預金は既に無いので、遺産分割もしようがあり
ません。他の相続人としては、到底納得できるものではありませんが、
どうすればいいのでしょうか。
まずは話し合いや調停の中で預金の払い戻しを主張して、金銭的解決
ができればいいのですが、なかなかまとまらないことが多いと思います。
法律的には、被相続人の預金を無断で払い戻していた場合には不法行為
(民放709条)若しくは不当利得(民法703条)になりますので、他
の相続人は、被相続人の預金を払い戻した相続人に対する損害賠償請求権
若しくは不当利得返還請求権を法定相続割合で相続したとして、その相続
人に対して返還請求することができます。
例えば、被相続人母Aの預金4000万円を相続人長男B(相続割合1/2)
が無断で払い戻した場合、相続人二男C(相続割合1/2)は相続人Bに
2000万円の返還請求ができることになります。
しかし、預金を払い戻した相続人(この例では相続人B)が争う場合、
裁判はそう簡単ではありません。
ⅰ預金の払戻しの有無
ⅱ被相続人の承諾の有無
ⅲお金の使いみち
ⅳ贈与の有無
等が争点となります。
ⅰについて、その相続人が預金を払い戻したことを立証する必要が
あります。通常、預金取引履歴や払戻請求書等の証拠で立証します。
キャッシュカードの場合、その保管状況等から立証する他ありません。
ⅱについて、無断であることを立証する必要があります。なぜなら、
被相続人は通帳や印鑑をその相続人に渡していたわけですから、預金
の払い戻しを認めていたとも思えるからです。被相続人が重度の認知
症とか寝たきりの状態であれば、比較的立証しやすいといえます。
ⅲについて、仮に無断で払い戻したとしても、被相続人のための費用
(医療費や介護費)として費消したのであれば、不当利得にならない場
合もあります。しかし、医療保険や介護保険制度下においてはそれほど
高額の費用とならないことが多いので、よく精査する必要があります。
ⅳについて、預金の払戻しについて、贈与だと主張されることもあり
ます。しかし、このような主張は裏付ける証拠がないと認められないの
が現状だと思います。
このように、簡単な裁判ではありませんが、無断で預金を払い戻した
ことが明らかであるならば、泣き寝入りしないで、請求すべきだと思い
ます。当事務所は、このような裁判を多く取り扱っています。
預金の無断払戻しの問題は、当事務所にご相談下さい。
(弁護士 小林輝征)